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花曇りの下で

花曇りの空の下で、
人々が集まり何か話をしていた。
港まで続く坂道の途中に、
千鶴子が愛した異人館がある。
近くの仕事先に届け物をしたついでに、
前を通って行こうとして、
その人だかりを見かけた。

何があったんだろう。
いつもなら、観光客が、
のんびり記念写真を撮って
いる頃なのに。

千鶴子と来た時も、
青い目の観光客にシャッターを
頼まれたなと、ぼんやりと思った。

遠目に見る分には、
人だかりは異人館の前のようだったが、
近づいてみると、
人々は、二軒隣りにある
写真館の前に集まっていた。

花曇りのせいで、
景色がぼやけて見えていたのか……
こんな灰色の日には、
千鶴子との思い出に引きずられる。

人々は写真館の中から出てきた、
一組の家族を囲んでいた。
男と女と、子供が二人。
男の子と女の子……

佇んだまま、
思い出の異人館を眺めていると、
会話が聞こえた。

「家族写真、撮ってきたよ。
これから、一緒に食事してきます」

「そうか。まあ、これからは、
チエちゃんと、仲良くな」

「はい、今日はありがとうございます」

「チエさん、よろしく頼みますね」

「はい…あの…みなさん、
せっかくですから、
一緒に写真撮っていただけますか」

「そうね……そうしましょう」

「それじゃあ、
あの異人館の前でどうかしら」

「ああ、いいな……」

どんな関係の人々なんだろう。
再婚同士だろうか。

もしかしたら、
千鶴子とも、一緒になれたかも……
花曇り、春はこれから。

「あの……よろしければ、
お撮りしましょうか」

いつのまにか、
その人々に話しかけていた。


by SBM0007 | 2019-03-21 23:25 | スケッチ

葉のひとしずく

by SBM0007